公務員を長く続けた人は、試験を受けずに行政書士になれる——いわゆる「特認」の話は、役所の中でもよく耳にするはずです。
制度は実在します。ただ、廊下で聞く話は「20年いればなれる」くらいに縮まっていることが多い。条文が数えているのは在籍年数ではなく、「行政事務」を担当した期間です。ここを取り違えると、退職してから「対象外でした」と分かる、という一番困る順番になります。
この記事では、条文の文言をそのまま示したうえで、登録の前に何が確かめられるのかを順に整理します。
公務員から士業へ転職するとき、実際に効くのは「資格」より「どの部署にいたか」 では、入り方を3つ(試験・職歴にもとづく制度・資格なしで事務所へ)に分けました。この記事は、そのうち2つ目を行政書士について掘り下げたものです。
条文に書いてあること
行政書士となる資格は、行政書士法第2条に列挙されています。公務員経験による資格は第6号です。
国又は地方公共団体の公務員として行政事務を担当した期間及び行政執行法人又は特定地方独立行政法人の役員又は職員として行政事務に相当する事務を担当した期間が通算して二十年以上(学校教育法による高等学校を卒業した者その他同法第九十条に規定する者にあつては十七年以上)になる者 ——行政書士法 第2条第6号(抜粋)
表にすると、こうなります。
| 最終学歴 | 必要な期間(通算) |
|---|---|
| 高等学校卒業者、または学校教育法90条に定める者(大学入学資格のある人) | 17年以上 |
| 上記以外 | 20年以上 |
⚠️ 大学を卒業した人も「高校卒業者その他90条に規定する者」に含まれるため、17年の側です。「大卒なら短くなる」という区分はありません。
条文から読み取れることを3つ挙げておきます。
- 「通算」である。 途中で部署が変わっても、行政事務を担当した期間を足し合わせて数えます。
- 国と地方公共団体の両方が対象。 市役所から県庁へ移った人も、足し合わせる前提の書き方です。
- 行政執行法人・特定地方独立行政法人の期間も含む。 ただしそちらは「行政事務に相当する事務」です。
年数を満たしても通らないことがある理由
条文の核は年数ではなく「行政事務を担当した」という部分です。
公務員として在籍した期間がそのまま行政事務の期間になるとは限りません。どの職務が行政事務に当たるかは、登録の段階で行政書士会が職歴証明書をもとに確認します。
そして東京都行政書士会は、案内のなかで次のように書いています。
行政事務歴に関する具体的な判断要素や審査基準については、電話やメール等では回答できかねます。
つまり、「自分の○○課での10年は数えられるか」を事前に口頭で聞いて確かめる方法は、少なくとも東京ではありません。 書類を出して確認を受けるのが唯一の確かめ方です。
ネット上には「技術職は含まれない」「現業は含まれない」といった整理も出回っています。方向としては条文の「行政事務」という語から自然に出てくる読み方ですが、当サイトでは個別の職種ごとの可否を書きません。 同じ肩書でも、実際に担当していた事務の中身で判断されるからです。
⚠️ だからこそ、在職中に確認を受けられるかどうかが大事になります。次の節の手続きは、書類がそろえば退職前でも進められる性質のものです。
登録までの流れ(東京都行政書士会の案内より)
特認で登録する人は、ふつうの登録申請の前に事前確認を受けます。東京都行政書士会の案内では、次の3点を提出するとされています。
| 提出するもの | 中身 |
|---|---|
| 行政書士資格事前確認願 | 事前確認を申し込む書類 |
| 公務員職歴証明書 | 行政事務歴による登録資格の有無を確認するためのもの。身分・階級・役職・職務内容を正確に記入。複数枚になる場合は任命権者の契印が必要 |
| 証明書 | 退職後3年を経過している場合、または職歴証明書に退職事由の記載がある場合は不要とされている |
- 職歴証明書は、原則として自分で書くものではありません。 勤務していた(している)官公庁の人事関係部署から、人事記録にもとづいて証明してもらいます。
- 確認結果が出るまで、2か月程度かかると案内されています。
この「2か月」は、事前確認だけの期間です。そのあとに通常の登録申請があります。退職日から開業日を逆算するなら、この2段を足して見積もってください。
⚠️ ここに書いた書類名・期間は東京都行政書士会の案内です。登録は「事務所を設けようとする都道府県の行政書士会を通じて」行うため(日本行政書士会連合会の案内)、実際に開業する都道府県の会の案内で必ず確かめてください。
職歴証明書は、早めに頼むほど楽になる
職歴証明書のために人事記録をさかのぼるのは、元の職場の人事担当です。長く勤めた人ほど、異動の記録は何枚にもなります。 退職して時間が経つと、頼みにいく先の担当者も入れ替わります。
在職中なら、自分の異動履歴と各部署で担当した事務の中身を、記憶が新しいうちに一覧にしておくだけでも、あとで証明書の記載と突き合わせるときに役立ちます。
欠格事由にも目を通しておく
行政書士法には、資格があっても行政書士になれない場合(欠格事由)が定められています。公務員に関わるものとして、懲戒免職の処分を受け、その処分の日から3年を経過しない者が含まれます。
上の表で「退職後3年を経過している場合は証明書が不要」とされているのは、この3年と対応していると読めます。ただし書類の要否は各会の案内が正です。
資格は得られても、試験で問われる知識は飛ばしている
特認は試験を受けずに資格を得る制度です。裏返すと、行政書士試験が問うている民法・行政法などの知識を、試験という形では一度も確かめていないことになります。
役所で扱っていた分野の許認可なら、申請を受ける側だった経験はそのまま強みです。一方で、行政書士に持ち込まれる相談は、担当していなかった分野のほうがはるかに多い。
- 相続・遺言、契約書、外国人の在留手続き、会社設立……と、依頼の入り口は広い。
- 行政書士が扱えない業務(独占業務の境界)も、開業すればすぐに問われます。登記は司法書士、税務申告は税理士、労働社会保険の手続きは社労士の領域です。境界は 行政書士の独占業務と「ここから先はできない」の境界|他士業との線引き にまとめています。
「詳しい」と「できる」は別という話は、公務員から士業への転職の記事 にも書きました。特認で登録する人ほど、開業前に一度、他の事務所の実務を横で見ておく価値があります。資格の有無を問わず士業事務所で働く道については、資格がなくても士業事務所で働ける を参照してください。
他の士業にも公務員経験の制度はあるが、中身は別物
税理士・社会保険労務士などにも、公務員として特定の事務に従事した人を対象にした試験科目の免除などの制度があります。
⚠️ ただし、行政書士の特認とは仕組みが違います。 行政書士の2条6号は「行政書士となる資格」そのものを与える規定ですが、他の資格では「試験の一部を免除する」形のものもあり、対象となる事務・年数・手続きもそれぞれ別に定められています。行政書士の20年・17年を、他の資格に当てはめないでください。
確認先は各資格の所管と全国組織です(税理士なら国税庁・日本税理士会連合会、社労士なら全国社会保険労務士会連合会)。
よくある質問
Q. 在籍20年なら、誰でも行政書士になれますか。
なれるとは限りません。 条文が数えるのは「行政事務を担当した期間」です。どの職務が該当するかは、職歴証明書をもとに行政書士会が確認します。
Q. 大卒ですが、20年必要ですか。
条文上、高校卒業者と学校教育法90条に定める者(大学入学資格のある人)は17年以上です。大卒の人はこちらに含まれます。
Q. 行政事務に当たるかどうか、事前に電話で聞けますか。
東京都行政書士会は、具体的な判断要素や審査基準は電話やメール等では回答できないと案内しています。書類を出して事前確認を受ける形になります。
Q. 手続きにはどのくらいかかりますか。
東京都行政書士会の案内では、事前確認の結果が出るまで2か月程度です。その後に通常の登録申請が続きます。他の都道府県の会では異なる場合があります。
Q. 登録にかかる費用はいくらですか。
登録免許税・登録手数料・入会金などがかかりますが、金額は会によって異なります。 開業する都道府県の行政書士会の案内で確かめてください。行政書士として受け取る報酬の考え方は 行政書士に頼むといくらかかるのか で扱っています。
Q. 40代・50代で転身して、やっていけますか。
年齢そのものより、どの分野の依頼を受けるかを開業前に決めているかで差がつきます。年代別の転職の考え方は 40代・50代から士業事務所へ転職できるか にまとめています。
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出典・確認先(確認日:2026-09-29)
- 行政書士法 第2条第6号(e-Gov法令検索で最新の条文を確認してください)
- 日本行政書士会連合会「行政書士になるには」
- 東京都行政書士会「新規登録申請のご案内」(公務員・行政事務歴での登録)
掲載内容は当サイトが確認した時点のものです。制度・手続き・必要書類は変更されることがあります。ご自身が対象になるかは、登録を予定している都道府県の行政書士会の案内で必ずご確認ください。

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