前提:相続登記は「やらない」という選択肢がなくなった
かつての相続登記は、義務ではありませんでした。放っておいても罰則がないため、「とりあえずそのまま」が積み重なり、所有者の分からない土地が全国に広がった——それが法改正の背景です。
現在は、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をしなければならないとされています。正当な理由なく怠った場合には10万円以下の過料の対象になり得るとされ、施行前に発生していた相続にも遡って適用される点が見落とされがちです。「昔のことだから関係ない」とはなりません。
制度の細かい要件や期限の起算点は個別事情で変わります。法務省・法務局が公表している相続登記の申請義務化に関する案内が一次情報にあたるため、期限や過料の扱いは必ずそちらと、管轄の法務局で確認してください。
自分でやる場合、実際に何をするのか
「自分でできる」と聞くと、法務局に行って書類を出すイメージを持たれがちですが、申請書の作成は最後の1割です。時間を食うのは、その手前にあります。
- 戸籍を集める:亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍が必要です。転籍や結婚のたびに戸籍は移るため、本籍地の市区町村をさかのぼって請求していきます。ここが最大の山場です。
- 相続人を確定させる:集めた戸籍を読み解き、法定相続人が誰かを確定します。前婚のお子さんや認知されたお子さんが判明することもあり、この段階で話が変わることがあります。
- 不動産を特定する:登記事項証明書と固定資産評価証明書を取得します。私道の持分や、隣接する小さな筆の抜けがここで見つかることがあります。
- 遺産分割協議書を作る:誰がどの不動産を取得するかを書面にし、相続人全員が署名・実印を押し、印鑑証明書を添えます。
- 申請書を作り、登録免許税を納める:法務局に申請します。書式や添付書類の案内は法務局のサイトに掲載されています。
登記の申請そのものは、書式に沿って書けば決して難解ではありません。法務局には登記手続きの案内窓口があり、事前予約で相談もできます。書類の不備は補正の連絡が来るため、一度で完璧である必要もありません。時間に余裕があり、相続関係が単純なら、自力申請は十分に現実的です。
費用の違いをどう見るか
自分でやれば「タダ」ではありません。実費は誰がやってもかかります。差が出るのは司法書士報酬の部分だけです。
| 項目 | 自分で申請 | 司法書士に依頼 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産評価額をもとに算出(相続登記は原則0.4%)。どちらでも同額 | |
| 戸籍・証明書の取得費 | 1通あたり数百円。通数が多いほど積み上がる。どちらでも発生 | |
| 司法書士報酬 | 0円 | おおむね5万〜15万円程度が一つの目安(事案の複雑さ・不動産の数で変動) |
| 自分の時間 | 戸籍収集を含め、数週間〜数か月に及ぶことも | 書類への押印と打ち合わせが中心 |
頼んだほうが安全なケース
次のどれかに当てはまるなら、自力申請にこだわる実益は小さくなります。費用を節約するつもりが、期限に間に合わなくなるという本末転倒が起きやすい類型です。
- 相続人が多い、または疎遠:遺産分割協議は全員の合意が要ります。連絡先が分からない、話がまとまらないという段階で、すでに登記の技術的な問題ではなくなっています。
- 何代か前の名義のまま(数次相続):祖父名義のままだった、という事案では、相続人が二十人を超えることも珍しくありません。戸籍の量が個人で扱える範囲を超えます。
- 不動産が複数の市区町村にまたがる:管轄する法務局ごとに申請が必要になり、手間が単純に倍増します。
- 相続放棄や、相続人に未成年者・判断能力が不十分な方がいる:家庭裁判所の手続きが絡み、登記だけの話では済みません。
- 登記の直後に売却する予定がある:不備があると決済が止まります。買主や金融機関がいる場面では、司法書士の関与が前提になっているのが通常です。
- 期限が迫っている:戸籍の取り寄せは待ち時間が読めません。残り時間が少ないなら、最初から任せるほうが確実です。
逆に、相続人が配偶者と子1〜2人、不動産は自宅1つ、全員が近くにいて話もついている——この条件がそろっているなら、自分で申請する人は実際にいます。判断の軸は「難しそうかどうか」ではなく、相続関係が単純かどうかです。
登記は司法書士。ほかの士業とどう違うか
相続の相談先は分かれていて、ここを取り違えると二度手間になります。不動産の登記申請を代理できるのは司法書士です。行政書士は登記申請の代理はできません(遺産分割協議書の作成など、周辺の書類作成を担う場面はあります)。相続税の申告は税理士、相続人どうしで争いになっている場合の代理は弁護士——と、局面ごとに担当が変わります。
相続税がかかるほどの規模で、かつ不動産の名義も変える、という場合は、司法書士と税理士の両方が関わります。連携している事務所を選ぶと、同じ戸籍を二度集める手間が省けます。
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よくある質問
相続登記を自分でやって、間違えたらどうなりますか?
書類に不備があれば法務局から補正の連絡が入り、直して出し直すことになります。その場で権利が失われるわけではありません。ただし、遺産分割協議の内容そのものに問題がある場合や、相続人の一部を見落としたまま手続きを進めた場合は、後から登記のやり直しや、相続人間の紛争に発展することがあります。戸籍の読み取りに自信が持てないときは、その段階で司法書士に相談してください。
期限の3年は、いつから数えるのですか?
一般には「相続の開始と、自分がその不動産を取得したことを知った日」から起算するとされていますが、遺産分割が成立した場合の扱いなど、起算点は事案により異なります。ご自身のケースがいつ起算なのかは、法務局または司法書士に確認してください。自己判断で「まだ大丈夫」と決めるのは避けたほうが安全です。
司法書士の報酬は、なぜ事務所によって違うのですか?
報酬額の基準は自由化されており、各事務所が自ら定めているためです。したがって金額の差は、そのまま質の差を意味しません。業務の範囲(戸籍収集を含むか)と実費の扱いをそろえて比較してください。
まず誰に相談すればいいか分かりません。
不動産の名義変更が主題なら司法書士です。相談先に迷う段階であれば、各都道府県の司法書士会が相談窓口を設けているほか、法務局でも登記手続きの案内を受けられます。相続人どうしで争いがある場合は弁護士が窓口になります。
まとめ
相続登記は自分でもできます。相続人が少なく、不動産が1つで、話がついている——この条件なら、法務局の案内を使いながら自力で進める人は実際にいます。一方で、数次相続、相続人が多い・疎遠、複数の管轄、売却予定あり、期限が迫っているのいずれかに当てはまるなら、司法書士に任せたほうが確実です。難所は登記申請ではなく戸籍を集めて相続人を確定させる作業で、ここは時間が読めません。義務化によって「放っておく」という選択肢は失われました。まずは自分の相続が単純か複雑か——その見極めから始めてください。
出典(一次情報)
- 法務省 民事局「相続登記の申請義務化に関するQ&A」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html(相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請義務/正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料/令和6年4月1日施行/施行日前に取得を知っていた相続は令和9年3月31日までに登記/相続人申告登記は特定の相続人が単独で申出可)
- 東京法務局「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)」https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/page000275.html(義務化・3年以内の申請・10万円以下の過料の案内)
確認日:2026-07-18。制度の要件・期限の起算点・過料の運用は、改正や個別の事情により変わることがあります。最新の内容は法務省・法務局の公表情報および管轄の法務局・司法書士でご確認ください。
本記事は相続登記に関する一般的な情報の整理であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。制度の要件・期限の起算点・過料の運用・費用は、改正や個別事情により変わることがあります。記載の報酬額は目安であり、金額を保証するものではありません。実際の手続きと期限の判断は、法務省・法務局の公表情報および司法書士にご確認ください。相続税については税理士、相続人間に争いがある場合は弁護士にご相談ください。

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