「役員は10年任期にしてあるから、しばらく登記は要らない」——そう聞いて設立した会社が、10年後にその話ごと忘れている。これは珍しいことではありません。
きっかけはたいてい外から来ます。融資の申込みで登記事項証明書を求められた、許認可の更新で提出することになった、あるいは法務局から封筒が届いた。そこで初めて、任期が何年も前に切れていたと気づきます。
この記事では、役員変更の登記をしないまま時間が経つと実際に何が起きるのかを、会社法の条文に沿って整理します。慌てて動く前に、自分の会社がどの段階にいるのかを先に確かめてください。
この記事は制度の一般的な説明です。過料の有無や金額、必要な手続きは、会社の状況や裁判所の判断によって変わります。個別の判断は司法書士など専門家にご確認ください。
まず、いつまでに登記する決まりなのか
会社の登記事項に変更があったときは、変更が生じた日から2週間以内に本店所在地で変更の登記をすることになっています(会社法915条1項)。
役員については、「任期満了で退任し、同じ人が再び就任した」場合も登記が必要です。ここが最も見落とされます。
- 同じ人が続けている=変更がない、ではありません
- 任期が満了した時点でいったん退任し、改めて選び直しているという扱いになります
- したがって「重任」の登記が要ります
任期は定款で決まります。株式譲渡制限のある会社(いわゆる非公開会社)では、定款で取締役の任期を最長10年まで伸ばせるとされています(会社法332条2項)。設立時に10年にしてある会社が多いのは、登記の回数を減らせるからです。ただしその裏返しで、10年後に忘れるという事故が起きます。
まず定款を出して、任期が何年になっているかを確認してください。ここが分からないと、次に進めません。
忘れているとき、実際に何が起きるか
起きることは、大きく2つです。片方は金銭の話、もう片方は会社の存続の話で、深刻さがまったく違います。
① 過料の通知が来ることがある
登記を怠ったときは、100万円以下の過料に処するとされています(会社法976条1号)。
ここで押さえておきたいのは次の点です。
- 過料は「罰金」ではありません。前科にはならず、刑事罰ではない行政上の秩序罰です
- 金額を決めるのは裁判所です。上限が100万円というだけで、実務上その額になるとは限りません
- 通知は、通常は会社ではなく代表者個人宛に届きます。会社の経費として扱えるかどうかは税務上の判断が必要なので、顧問税理士に確認してください
- 必ず来るとは限りません。来る/来ないの線引きは公表されていないため、「来なかったから問題ない」とは言えないというのが正確なところです
遅れの期間が長いほど重く扱われる傾向があると言われますが、これは実務上の経験則で、条文に書かれた基準ではありません。確実なのは「早く直したほうがよい」ということだけです。
② 12年放置すると、解散したものとみなされる
こちらが本当の問題です。
最後の登記から12年を経過した株式会社は「休眠会社」として扱われ、法務大臣による公告が行われます。公告から2か月以内に「まだ事業を廃止していない」旨の届出をするか、何らかの登記をしなければ、その期間の満了時に解散したものとみなされます(会社法472条)。
これが、法務局から届く封筒の正体です。通知は本店所在地に届きます。つまり——
- 本店を移したのに登記していない会社
- 本店が代表者の旧住所のままになっている会社
は、通知を受け取れないまま解散扱いになることがあります。登記を放置している会社ほど、通知が届かない場所に本店があるという、いちばん厄介な組み合わせです。
なお、みなし解散となった後でも、一定期間内(解散したものとみなされた後3年以内)であれば、株主総会の決議によって会社を継続できるとされています(会社法473条)。ただし継続の登記に加えて役員の選任も必要になり、手間も費用も、通常の変更登記とは比べものになりません。
気づいたときにやること(順番)
慌てて法務局へ行く前に、手元をそろえてください。そろっていないと出直しになります。
1. 定款を出す。取締役・監査役の任期が何年になっているかを見る 2. 登記事項証明書を取る。最後にいつ、誰で登記されているかを確認する(法務局の窓口・オンラインで取得できます) 3. 株主総会議事録を探す。任期満了のたびに選任していれば、議事録が残っているはずです。あれば、日付をさかのぼって登記できます 4. 議事録が無い場合は、そこから作る必要があります。ここは自己判断で作らないでください。日付と内容の整合が取れていないと、後から否認される余地を残します 5. 司法書士に相談する。何年分たまっているか、議事録が残っているかで、必要な書類と費用が変わります
登記は司法書士の業務範囲です。行政書士・税理士では登記の代理はできません——この線引きは 司法書士は何をしてくれる? に整理しています。会社設立のときに誰に何を頼むかで迷った方は 会社設立を行政書士に頼むメリットと費用の目安 も参考になります。
費用は何で変わるのか
見積もりを取ると、事務所によって金額が違って見えます。多くは「報酬」と「実費」を分けていないことが原因です。
| 内訳 | 中身 |
|---|---|
| 登録免許税(実費) | 法律で決まっている税額。どの事務所に頼んでも同じ |
| 司法書士報酬 | 事務所ごとに異なる。たまっている年数・作る書類の量で変わる |
| 実費(その他) | 登記事項証明書の取得費用、郵送費など |
比べるのは報酬の欄だけです。実費は動きません。この分け方は 司法書士に頼むと、いくらかかるのか で詳しく書きました。
「何年分たまっているか」を最初に伝えてください。ここを言わずに見積もりを取ると、着手後に金額が動きます。
二度目を防ぐには
直したあとが本題です。同じことは繰り返されます。任期が10年だと、次に思い出すのは10年後だからです。
- 任期満了の年をカレンダーに入れる。会社の年次行事として、決算と同じ扱いにする
- 任期を短くすることも選択肢です。登記の回数は増えますが、忘れる期間が短くなります。定款変更が必要なので、判断は専門家と
- 顧問がいるなら、任期の管理を誰が持つかを決めておく。「誰かが見ているはず」がいちばん危ない状態です
- 本店の登記を実態に合わせる。通知が届かないと、気づく機会そのものが失われます
顧問を誰に頼むか、そもそも頼むべきかで迷っている場合は 士業事務所の選び方 を参考にしてください。
よくある質問
Q. ひとり会社(取締役1名)でも登記は必要ですか A. 必要です。取締役が1人でも任期は満了します。同じ人が続ける場合も「重任」の登記が要ります。
Q. 過料はいくらぐらいになりますか A. 金額は裁判所が決めるため、事前には分かりません。条文上の上限が100万円(会社法976条1号)とされているだけです。具体的な額を約束する情報には注意してください。
Q. 通知が来ていないので、まだ大丈夫ということですか A. そうとは言えません。過料の通知が来るかどうかに公表された基準はなく、またみなし解散の通知は本店所在地に届くため、本店が実態と違う会社は受け取れていない可能性があります。登記事項証明書を取って、最後の登記日を自分で確認するのが確実です。
Q. もう事業をしていない会社なので、放っておいてもいいですか A. 放置と、きちんと畳むことは別です。みなし解散になっても清算が自動で終わるわけではなく、役員個人に手続きが残ることがあります。畳むつもりであっても、一度は司法書士か税理士に状況を見てもらってください。
Q. 株式会社以外の法人でも同じですか A. 期間や根拠となる法律が異なります。この記事は株式会社を前提に書いています。他の法人形態については、その法人に対応している専門家に確認してください。
まとめ
- 登記事項の変更は2週間以内(会社法915条1項)。同じ人が続ける「重任」も登記が要る
- 怠ったときは100万円以下の過料(会社法976条1号)。金額を決めるのは裁判所で、事前には分からない
- 最後の登記から12年で、みなし解散の対象(会社法472条)。通知は本店所在地に届く
- 気づいたら、定款 → 登記事項証明書 → 議事録の順にそろえてから相談する
- 議事録を自己判断で作らない。ここは専門家と一緒にやる部分です
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出典:会社法915条1項(変更の登記)/332条2項(取締役の任期)/472条(休眠会社のみなし解散)/473条(会社の継続)/976条1号(過料)。条文は e-Gov 法令検索でご確認いただけます。
免責:本記事は制度の一般的な説明であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。手続きの要否・費用・過料の扱いは、会社の状況によって異なります。実際の対応は司法書士等の専門家にご相談ください(確認日:2026-09-06)。

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