制度への対応は、たいてい「分からないから調べる」ではなく、「取引先から聞かれて、初めて自分ごとになる」という順番で始まります。登録番号を出してほしいと言われた。請求書の様式を変えてほしいと言われた。受け取った請求書をどう保存すればいいのか分からなくなった。
そこで初めて、税理士に頼むという選択肢が出てきます。
この記事では、インボイス制度と電子帳簿保存法について、どこまでが自分でやれる範囲で、どこから頼むことになるのか、そして頼むと料金がどう乗るのかを整理します。
なお、制度の要件そのもの(対象・期限・経過措置の内容など)は国税庁が案内を公開しています。適用の可否や具体的な要件は、必ず一次情報と、依頼した税理士の説明でご確認ください。この記事は判断の順番を整理するものです。
そもそも、この2つは別の話です
まとめて語られがちですが、目的が違います。混ざったまま考えると、何を頼めばいいのかが決まりません。
| インボイス制度 | 電子帳簿保存法 | |
|---|---|---|
| 何の話か | 消費税の計算に関わる話 | 保存の方法に関わる話 |
| 主に関わるのは | 適格請求書を交付できるか、受け取った分をどう扱うか | 帳簿・書類・電子取引データをどう保存するか |
| 困りやすいところ | 登録するかどうかの判断/請求書の様式/消費税の計算方法の選択 | 電子でやり取りしたものの保存/検索できる状態にすること |
| 相談先として近いのは | 税理士 | 税理士に加えて、会計ソフトやシステムの提供元 |
この違いは実際に効きます。インボイスは「払う税額がいくらになるか」に直結するので税理士の領域ですが、電子帳簿保存法は保存の運用の話なので、使っている会計ソフトの設定でほとんど片付いてしまうことがあります。「税理士に頼まないと無理」と思い込む前に、まずソフト側の案内を見たほうが早い場面があります。
インボイス:自分でやれる範囲と、判断が要る範囲
作業として見ると、手を動かすだけのものと、判断が要るものが混ざっています。
自分でやれることが多い部分
- 登録の申請そのもの——手続きの実務です。案内に沿って進められます
- 請求書の様式を直す——記載事項を満たす形に変える作業。会計ソフト・請求書ソフト側で対応していることが多い部分です
- 登録番号を取引先に伝える——連絡の実務です
判断が要る部分(ここが頼む理由になります)
- そもそも登録するかどうか——免税事業者の場合、登録すると消費税を納める立場になります。取引先との関係と、納税額の両方をふまえた判断です
- 消費税の計算方法の選択——原則の計算のほか、簡易課税など複数の方式が用意されています。選び方で納税額が変わり、選択には手続きと期限が伴います
- 経過措置をどう使うか——負担を軽くするための措置が案内されていますが、適用できる条件と期間があります
切り分けの目安はここです。「書式を変える・番号を伝える」は作業。「登録するか」「どの計算方式にするか」は判断。判断のほうだけを相談する、という頼み方もできます。 <span>※ 適用できる制度・条件・期限は事業者の状況によって異なります。ご自身に何が使えるかは、国税庁の案内と税理士にご確認ください。</span>
判断のほうを間違えると、あとから直せないことがあります。計算方式の選択には届出と期限が伴うためです。「とりあえず登録して、あとで考える」が通用しない部分があるのは、ここです。
電子帳簿保存法:義務になっている部分と、任意の部分がある
ここも混ざりやすいところです。すべてが義務というわけではありません。
- 電子でやり取りしたデータ(メール添付のPDF請求書、Web上でダウンロードした領収書など)は、電子データのまま保存することが求められます
- 紙で受け取った書類をスキャンして保存するのは、選べる方法です。紙のまま保存することもできます
- 帳簿を電子で保存するのも、要件を満たしたうえで選べる方法です
つまり、いちばん最初に確かめるべきは「電子で受け取っているものが、どこにいくつあるか」です。ここを洗い出さないまま「システムを入れるべきか」と考え始めると、話が大きくなりすぎます。
洗い出しは、自分でやったほうが早い
- メールに添付されて届く請求書・領収書
- 通販サイト・サービス管理画面からダウンロードする領収書
- 電子契約サービスでやり取りしている書類
- クレジットカードやキャッシュレス決済の明細
これは事業の実態を知っている本人にしか分かりません。税理士に頼んでも、結局この一覧を出すところから始まります。先に自分で作っておくと、相談が一度で終わります。
頼む価値があるのは、保存の要件を満たしているかの確認
保存には、改ざんを防ぐ側の要件と、後から探し出せる側の要件があります。会計ソフトを使っていれば満たせることが多い一方、メールの添付ファイルをフォルダに入れているだけという状態だと、要件を満たしていない可能性があります。
<span>※ 要件の具体的な内容、規模による取扱いの違い、猶予や経過的な措置の有無は、国税庁の案内でご確認ください。この記事では要件の中身までは踏み込みません。</span>
「今のやり方で足りているか」を見てもらうのは、1回きりの相談で済むことが多い部分です。毎月の顧問契約が必要な話とは限りません。
頼むと、料金はどう乗るのか
ここが最も知りたいところだと思いますが、税理士報酬は自由化されており、一律の基準はありません。そのうえで、案内のされ方はおおむね次のどれかに寄ります。
| 型 | 中身 | 向いている状況 |
|---|---|---|
| スポット相談 | 登録の判断、計算方式の選択、保存方法の確認を1回で見てもらう | 困っているのが判断だけのとき |
| 初期の設定支援 | 請求書の様式、保存の運用、ソフトの設定までを立ち上げる | 社内に決める人がいない/これから体制を作る |
| 顧問契約に含む | 毎月のやり取りの一部として扱う | すでに記帳や申告も外に出したい |
すでに顧問税理士がいる場合、この対応が顧問料に含まれるかどうかは契約によって違います。追加費用になることもあれば、通常の範囲として扱われることもあります。契約書か、契約時の説明資料を確認してください。書面に記載がなければ、そこを明確にしておくこと自体が今後のためになります。
顧問料そのものの決まり方は税理士の顧問料はどう決まるのかに、顧問を持たずスポットで頼む形については決算だけを税理士に頼めるのかに整理があります。
「制度対応」を入口に頼むときの、順番の注意
制度への対応をきっかけに税理士を探す場合、そこだけを切り出して頼むか、まとめて任せるかで、話の進み方が変わります。
- 判断だけ頼みたいなら、そう伝える。「インボイスの登録をするか迷っている」と最初に言えば、その相談として受けてもらえます
- 記帳から任せたいなら、それも最初に伝える。制度対応の相談として始まったものが、途中から顧問契約の話に変わると、費用の見え方が分かりにくくなります
- 今の帳簿の状態を隠さない。作れていない期間があるなら、先に言ってください。後から出てくるほうが、話がやり直しになります
記帳そのものを外に出す場合の費用感は記帳代行の費用はどう決まるのかに、そもそも税理士に頼むべき時期の考え方は税理士に頼むタイミングはいつかにまとめています。
聞くと、頼む範囲がはっきりする3つの質問
見積もりの金額より先に、次の3つを聞くと範囲が見えます。
1. 「この費用に、登録や届出の手続きは含まれますか」——判断だけなのか、手続きの代行まで含むのか 2. 「保存の方法まで見てもらえますか、それとも消費税の話だけですか」——インボイスと電子帳簿保存法のどちらを扱うのかは、事務所によって範囲が違います 3. 「制度が変わったときは、どこまで知らせてもらえますか」——一度きりで終わるのか、継続的に見てもらえるのか
この3つに即答できる相手は、範囲を整理して仕事をしています。
よくある質問
Q. 免税事業者のままでいると、取引が減りますか。 A. 取引先の事情によって変わるため、一律には言えません。相手が消費税の計算上どう扱うかで影響の出方が違い、経過的な措置も案内されています。「登録しないと切られる」と決めつける前に、実際の取引先の構成をふまえて税理士に相談してください。
Q. 会計ソフトを入れていれば、電子帳簿保存法は大丈夫ですか。 A. ソフトによって対応の範囲が違います。まずは使っているソフトの提供元が公表している案内を確認してください。そのうえで、自社の運用が要件を満たしているかを税理士に見てもらう、という順番が無駄がありません。
Q. 税理士ではなく、行政書士や社労士に頼めますか。 A. 消費税の計算や申告に関わる部分は税理士の領域です。士業ごとに扱える業務の範囲が定められています。士業ごとの境界については税理士は何をしてくれるのか|他士業との境界も参考にしてください。
Q. 一度頼んだら、ずっと契約し続けることになりますか。 A. スポットでの相談を受けている事務所もあります。ただし、継続を前提とした事務所もあるため、最初の問い合わせの時点で「今回だけ相談したい」と伝えてください。前提が食い違ったまま進むほうが、お互いに時間を使います。
Q. 期限が過ぎてしまった場合はどうなりますか。 A. 状況によって扱いが異なります。放置するより早く相談するほうが選べる手が多く残るのが一般的です。具体的な対応は、期限の種類と経過期間によって変わるため、税理士にご確認ください。
—
制度の要件・期限・経過措置の内容は、事業者の状況によって適用が異なります。本記事は頼む範囲を整理するための一般的な考え方であり、個別の判断を示すものではありません。実際の対応は、国税庁が公表している案内と、依頼した税理士の説明に基づいて進めてください。
関連記事

コメント