「そろそろ法人にしたほうがいいのだろうか」と考え始めた人が、次に必ず詰まるのが「で、誰に聞けばいいのか」です。
検索すると、税理士のページも、司法書士のページも、行政書士のページも、社会保険労務士のページも出てきます。全員が「法人成りのご相談はこちら」と書いています。しかも書いてあることが少しずつ違う。
これは、どこかが間違っているわけではありません。法人成りが、ひとつの手続きではないからです。
法人成りは4つに分かれている
| 段 | 何をするところか | 主に見てくれる相手 |
|---|---|---|
| ① 判断 | そもそも法人にするかどうか、するならいつか | 税理士・会計事務所 |
| ② 設立 | 会社をつくる(定款をつくり、登記する) | 司法書士(登記)/行政書士(定款・許認可) |
| ③ 引き継ぎ | 個人でやっていた事業を法人に移す(契約・許認可・口座・屋号) | 行政書士・司法書士・税理士(内容による) |
| ④ 人 | 社会保険への加入、役員と従業員の扱い | 社会保険労務士 |
この4つは、必要になる時期がずれています。①が済まないうちに②を進めても意味がなく、②が終わらないと③④は始まりません。
そして重要なのは、①だけが「やるかどうかを決める段」だという点です。②③④は、①で「やる」と決まってから発生します。
順番を取り違えて困る典型は、②から入ってしまうことです。設立の費用の安さで相手を選び、会社はできたけれど、「そもそも今つくるのが自分にとって良かったのか」を誰にも確かめていなかったという状態になります。
① まず「するかどうか」を相談する
法人にするかどうかの判断材料は、人によって重心が違います。よく挙がるのは次のようなものです。
- 手取りがどう変わるか(事業のもうけの出方や、家族への給与の扱いによって変わります)
- 取引先から法人であることを求められているか
- 社会保険の加入が発生することを、負担として見込めるか
- 事業を続ける年数と、将来だれかに引き継ぐ見通しがあるか
- 経理や届出の手間が増えることを、受け止められるか
このうち、数字で示せるのは最初のひとつだけです。残りは、本人が決めることを前提に、材料を出してもらう部分になります。
数字の部分を見てもらう相手は、税理士または会計事務所です。すでに決算や申告を頼んでいる相手がいるなら、まずその人に「法人にした場合、どのくらい変わりそうか」と聞くのがいちばん早くなります。自分の事業の中身をすでに知っている相手だからです。
頼んでいる相手がいない場合は、ここで探すことになります。頼み始める時期の考え方は 税理士に頼むのはいつからか|「まだ早い」と言われる時期と、遅れると取り返せない4つの場面 にまとめています。
注意したいこと 法人にしたほうが有利になるかどうかは、もうけの額だけで決まるものではありません。「いくらを超えたら法人」という数字を見かけることがありますが、家族構成・取引先・事業の種類・今後の見通しによって結論は変わります。一般的な目安として読み、自分に当てはまるかどうかは必ず個別に確認してください。
② 設立そのものは、登記と書類で担当が分かれる
「やる」と決まってからが、②です。ここで初めて、司法書士と行政書士の名前が出てきます。
| やること | 誰が担えるか |
|---|---|
| 定款をつくる | 行政書士・司法書士のいずれも扱うことがあります |
| 法務局への設立登記の申請 | 司法書士(本人が自分で申請することもできます) |
| 許認可の取得・引き継ぎ | 行政書士 |
登記の申請を本人に代わって行うのは司法書士の役割で、ここは資格による線が引かれています。司法書士が何を扱うかは 司法書士は何をしてくれる?登記・相続・会社・後見と、頼むべき場面の見分け方 を参照してください。
行政書士に設立まわりを頼む場合に、どこまでを頼めてどこからが別の資格の担当になるかは 会社設立を行政書士に頼むメリットと費用の目安|どこまで頼めて、登記は誰に? に整理しています。新しく会社をつくるときの話としてはそちらが本筋で、この記事は「すでに個人で事業をやっている人」に固有の論点を扱います。
個人事業からの法人成りに固有の、②での注意
- 会社名(商号)を、個人の屋号と同じにするかどうか。同じにすると、看板や名刺の作り直しが減ります
- 事業の目的を、いま実際にやっている事業に合わせて書けているか。狭く書きすぎると、後から広げるのに手間がかかります
- 決算の時期をいつにするか。個人事業のときと同じ感覚で決められるものではありません
このあたりは、②の手続きを頼む相手に聞くより、①で相談した相手に聞くほうが的確な答えが返ってくることが多い部分です。手続きをする人と、事業を知っている人が別なら、両方に確かめてください。
③ いちばん見落とされるのが「引き継ぎ」
会社ができた時点で、個人事業がひとりでに法人に移るわけではありません。
- 取引先との契約……契約の名義は個人のままです。切り替えの連絡が要ります
- 事務所や店舗の賃貸借……貸主の承諾が要ることがあります
- 許認可……個人で取った許可は、法人に自動では引き継がれないことがあります
- 銀行口座・決済サービス・リース……名義の変更や、契約の結び直しが発生します
- 個人事業の廃業に関する届出……法人をつくったことと、個人事業をやめることは別の手続きです
このうち、いちばん事故になりやすいのが許認可です。飲食・建設・古物・運送・人材など、許可が要る商売をしている人は、②に入る前に③を確かめてください。「会社はできたが、許可が下りるまで営業できない」という空白が生まれることがあります。
許認可の扱いを見てもらう相手は行政書士です。許可の種類ごとに、引き継げるか・取り直しかが違うため、業種を伝えて個別に聞くことになります。
④ 人の手続きは、法人になった時点から始まる
法人になると、社会保険の扱いが個人事業のときと変わります。役員が自分ひとりの会社でも関係します。
- 加入の手続きをいつまでに、どこへ出すか
- 役員の報酬をどう決めるか(決め方と時期に決まりがあります)
- 従業員がいる場合の、雇用の手続き
ここを見てもらうのが社会保険労務士です。従業員を雇っている人は、個人事業のときの手続きと、法人になってからの手続きが別物になるため、切り替えの時期を先に相談しておくと抜けが出ません。
はじめて人を雇うときの窓口の分かれ方は はじめて人を雇うとき、届出はどこに出すのか|4つの窓口の分かれ方と、誰に頼めるかの線引き にまとめています。個人事業のときに済ませた手続きと、法人になってからの手続きは別物になるので、切り替えの時期と合わせて読んでください。
なお、法人にするのと同時に金融機関からの借り入れを考えている場合は、相談する相手がさらに一段増えます。その分かれ方は 創業融資は、誰に相談すればいいのか|税理士・認定支援機関・自治体の窓口、それぞれが見てくれる範囲 を参照してください。
結局、誰から声をかけるのが早いか
①の相談相手から始めるのが、いちばん手戻りが少なくなります。
理由は単純で、①だけが「やらない」という結論になりうる段だからです。②③④は、やると決まった後の作業です。決まっていないうちに作業側から入ると、決まらなかったときに払ったものが戻りません。
もうひとつ、実務的な理由があります。法人成りを扱い慣れている事務所は、②③④の相手を紹介できることが多いのです。設立の登記を頼む司法書士、許認可を見る行政書士、社会保険の社会保険労務士――ばらばらに自分で探すより、①の相手に「この後の段はどうしますか」と聞くほうが早く進みます。
相談するときに、先に用意しておくと話が早いもの
- 直近の決算または申告の内容(もうけの出方が分かるもの)
- いま出ている取引先と、そのおおよその割合
- 従業員がいるかどうか、何人か
- 許認可を取っているか、取っているなら何の許可か
- 事務所や店舗を借りているか
- 法人にしたい理由(取引先の要請なのか、手取りの話なのか、将来の引き継ぎなのか)
最後のひとつが、いちばん大事です。理由によって、勧められる時期も、つくる会社の形も変わります。「なんとなくそろそろ」で相談に行くと、相談した相手も判断材料を持てません。
よくある取り違え
「法人成りは司法書士に頼むもの」 登記は司法書士ですが、それは②の作業です。するかどうかの判断は含まれていません。
「行政書士に頼めば全部やってくれる」 定款や許認可は扱いますが、登記の申請は資格の線が別です。どこまでを頼めるのかを、依頼する前に確認してください。
「税理士に聞けば全部わかる」 ①と、③の一部については的確な答えが返ってくることが多い一方で、許認可や社会保険は専門が別です。「この点は誰に聞くべきですか」と聞けば、たいてい教えてもらえます。
「会社をつくってから考えればいい」 許認可が要る業種では、これが最も高くつきます。つくってから調べると、営業できない期間が生まれることがあります。
まとめ
- 法人成りは「判断」「設立」「引き継ぎ」「人」の4段に分かれていて、段ごとに相談先が違う
- 始めるのは①の判断から。税理士・会計事務所に、自分の事業の数字を見てもらう
- 登記は司法書士、許認可は行政書士、社会保険は社会保険労務士が主な担当になる
- 許認可が要る業種の人は、会社をつくる前に③を確かめる
- ①の相手に「この後の段はどうしますか」と聞けば、後続の相手を紹介してもらえることが多い
なお、ここに書いた分かれ方は一般的な整理です。事務所によって扱う範囲は異なり、制度や手続きの内容は変わることがあります。実際に進めるにあたっては、依頼を検討している事務所と、法務局・年金事務所・各許認可の窓口など、それぞれの公式の案内で必ずご確認ください。

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