ひとりで始めた事業に、はじめて人を入れる。この瞬間に、それまで存在しなかった種類の手続きが一気に発生します。
しかも厄介なことに、窓口がひとつではありません。 「雇用の手続き」とまとめて呼ばれているものは、実際には別々の役所に、別々の書類を出す作業の集まりです。
そして相談先も分かれます。社労士に頼むものと、税理士に頼むものが混ざっています。
この記事では、どの窓口に何が発生するのかと、誰に頼めるのかの線引きを整理します。
⚠️ 制度の要件・提出期限・様式は改正されます。この記事では具体的な日数や金額の断定を避けています。 実際に手続きをするときは、必ず各窓口の公式の案内でご確認ください。
窓口は4つに分かれる
人をひとり雇ったときに動き出すのは、大きく次の4系統です。
| 系統 | 主な窓口 | ざっくり何の手続きか |
|---|---|---|
| 労災の保険関係 | 労働基準監督署 | 事業として労働者を使う関係を成立させる届出 |
| 雇用の保険関係 | ハローワーク | 事業所の設置と、雇った人の資格取得の届出 |
| 社会保険 | 年金事務所 | 事業所としての適用と、雇った人の資格取得の届出 |
| 源泉徴収の関係 | 税務署 | 給与を払う事業所として必要になる届出 |
この4つは連動していません。 ひとつ出したら他が済むということはなく、それぞれに書類と期限があります。
さらに、役所に出すものとは別に、雇う相手に渡す書類があります。労働条件を書面で明示するものです。これは届出ではありませんが、後から揉めたときに最初に見られる書類です。
「1人目」で重いのは、事業所そのものの手続き
ここが、2人目以降と決定的に違うところです。
- 2人目以降……「その人を加える」手続きだけで済むことが多い
- 1人目……事業所として保険関係を成立させるところから始まります
つまり、同じ「雇用手続き」という言葉でも、1人目だけは中身が別物です。事業所の届出と、その人の届出が同時に来ます。
「1人だけだから簡単だろう」と見積もると、ここでずれます。
誰に頼めるのか
相談先は、書類の系統で決まります。 「なんとなく士業に聞く」ではなく、どの窓口に出す書類かで分かれます。
| 頼む相手 | 主に扱う範囲 |
|---|---|
| 社会保険労務士(社労士) | 労働・社会保険に関する手続き。労基署・ハローワーク・年金事務所へ出すものが中心 |
| 税理士 | 税務署へ出すもの、源泉徴収・年末調整まわり |
| 行政書士 | 許認可などが中心。労働・社会保険の手続きの代行は範囲外とされています |
ここは資格ごとに扱える範囲が法令で定められている領域です。「知り合いの士業に全部お願いする」が成立しないことがあります。引き受けられる範囲かどうかは、依頼する前に本人に確認してください。
「ここから先はできない」という境界がどう決まっているかは 行政書士の独占業務と「ここから先はできない」の境界|他士業との線引き に整理しています。
よくある組み方
開業直後の当事者が実際に取る形は、だいたい次の3つに落ちます。
1. 税理士だけ顧問にいて、雇用の手続きだけスポットで社労士に頼む … 1人目のときだけ発生する事業所の届出を任せ、以降は自分で回す形です 2. 社労士とも顧問契約をする … 人が増える見込みがあるとき。月額に何が含まれるかは事務所ごとに違います(社労士の顧問契約には、何が含まれているのか)。金額そのものの目安は従業員規模で変わるため、社労士の顧問料の相場と「何が含まれるか」も合わせて見てください 3. 全部自分でやる … 手続きそのものは自分でも出せます。ただし、毎月続く作業が後から効いてきます(後述)
自分でやる場合、重いのは「届出」ではなく「毎月」
届出は1回で終わります。 調べれば出せますし、窓口で相談することもできます。
続くのは給与のほうです。
- 毎月の給与計算
- 天引きしたものの納付
- 年に一度の年末調整
- 人が増減するたびの届出
1人目を雇った時点では、この重さが見えません。 「届出を出したら終わった」と感じたあとに、毎月の作業が始まります。
給与計算を外に出す場合の費用の考え方は 給与計算を外注するといくらか|「基本料+従業員1人あたり」の読み方 に整理しています。1人だけのうちは、外注のほうが割高に見えることが多いです。判断が分かれるところです。
就業規則は、1人目では必須ではないことが多い
よく混同されるところなので分けておきます。
就業規則は、常時使用する労働者の人数が一定数に達したときに作成・届出の義務が生じるという組み立てになっています。人数の線については 就業規則は自分で作れる?|10人の線・届出までの流れと、社労士に頼む場面の見分け方 を参照してください。
つまり、1人目の段階では「まだ要らない」ことが多いです。ただし、
- 労働条件を書面で示すことは、人数に関係なく発生します
- 働く時間や休日の決め方は、就業規則が無くても法令の枠に収まっている必要があります
「規則が無い=何も決めなくていい」ではありません。 ここを取り違えると、あとから直すほうが重くなります。
順番として、こう進めると詰まりにくい
1. 雇う条件を先に文章にする(時間・休み・賃金の決め方・いつから) 2. その条件で、どの保険に入る人になるのかを確認する(働く時間や日数で扱いが変わることがあります) 3. 4つの窓口のうち、自分に発生するものを確認する 4. 社労士・税理士に、引き受けられる範囲を聞く 5. 毎月続く作業を、誰がやるか決める
1から3を飛ばして「とりあえず届出」に進むと、条件のほうを後から直すことになります。 手続きは、決めたことを役所に伝える作業であって、決める作業ではありません。
よくある質問
Q. アルバイトを1人だけ雇う場合も、同じ手続きが要りますか。 A. 働く時間や日数によって、加入する保険の扱いが変わることがあります。 「アルバイトだから不要」と決めずに、条件を持って窓口か専門家に確認してください。 ここは人によって結論が変わる部分です。
Q. 家族に手伝ってもらう場合はどうなりますか。 A. 同居の親族かどうかなどで扱いが分かれることがあります。 一般の従業員と同じ前提で進めると外れることがあるため、個別に確認してください。
Q. 手続きを忘れていたことに、あとで気づきました。 A. 早く相談してください。 遡って処理できるものと、そうでないものがあります。放置すると選べる方法が減っていきます。 期限や取り扱いは制度ごとに違うため、窓口か社労士に、現状のまま相談するのが早いです。
Q. 助成金を使いたいのですが、雇う前に何かありますか。 A. 制度によっては、雇う前の段階で必要な手続きがあります。 雇ってから調べると間に合わないことがあるため、先に確認してください(助成金と補助金、申請は誰に頼むのか)。
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