社労士の顧問料の請求書が届いた。金額は分かる。振り込むのも難しくない。手が止まるのは、帳簿に付ける段になってからです。
「勘定科目は何にするのか」を調べ始めると、ほぼ必ず「源泉徴収が必要な場合があります」という一文にぶつかります。そして、ここで多くの人が混乱します。同じ「士業への報酬」なのに、引く相手と引かない相手がいるからです。
先に結論を書くと、分かれ目は資格の名前だけではありません。①相手の資格 ②相手が個人か法人か ③払う側が源泉徴収をする立場か。この3つで決まります。勘定科目の話は、そのあとで十分です。
資格によって「引く」「引かない」が分かれる
所得税法には、支払うときに所得税を差し引かなければならない報酬の種類が並んでいます。士業の報酬もそこに含まれていますが、すべての士業が載っているわけではありません。
| 支払先の資格 | 源泉徴収 | 計算のしかた |
|---|---|---|
| 税理士・社会保険労務士・弁護士・弁理士・公認会計士 | 対象 | 報酬額 × 10.21%(1回の支払いで100万円を超える部分は20.42%) |
| 司法書士・土地家屋調査士 | 対象 | (報酬額 − 1万円)× 10.21% |
| 中小企業診断士(経営コンサルタント等を含む) | 対象 | 報酬額 × 10.21%(100万円を超える部分は20.42%) |
| 行政書士 | 対象外 | 差し引かない |
中小企業診断士は「士業の中でも対象外だろう」と思われがちですが、所得税法施行令では「企業診断員」として対象に入っています。登録した診断士だけでなく、企業の求めに応じて経営の診断や指導をする人(経営コンサルタント等と名乗る人)も含まれる扱いです。
実務でいちばん間違いが起きやすいのが、行政書士と司法書士の取り違えです。会社設立で両方に頼んだ場合、定款を作った行政書士への報酬からは引かず、登記をした司法書士への報酬からは1万円を控除したうえで引く、という扱いになります。名前が似ているうえ、同じ時期に請求書が届くので、両方に同じ処理をしてしまいがちです。
行政書士と司法書士がそもそも何を分担しているのかは、行政書士に頼むといくらかかるのかと司法書士に頼むと、いくらかかるのかで、それぞれの費用の中身と一緒に整理しています。
税率と計算のしかたは、国税庁のタックスアンサーNo.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金とNo.2801 司法書士等に支払う報酬・料金に載っています。制度の改正で変わることがあるので、処理の前に一度開いてください。
請求書で、先に見る3か所
表に当てはめる前に、請求書のうち次の3か所を見てください。ここで「引かない」が決まることがかなりあります。
1. 請求元は「個人」か「法人」か
源泉徴収の対象になるのは、個人の士業に払う報酬です。請求書の発行元が「税理士法人◯◯」「社会保険労務士法人◯◯」「司法書士法人◯◯」のように法人であれば、資格が表の上段でも差し引きません。
見落としやすいのは、事務所名に「法人」が入っていないケースです。「◯◯会計事務所」「◯◯労務事務所」は名乗り方の問題なので、個人事務所のことも法人のこともあります。請求書の下の方にある登録番号の名義や、振込先口座の名義を見ると判別できることが多いです。
2. 請求書に「源泉徴収税額」の行があるか
個人で開業している士業の多くは、請求書にあらかじめ「源泉所得税 △3,063円」のような行を入れて、差し引いた後の金額を振込額として書いてきます。
この行があれば、基本的には書いてある金額を振り込めば足ります。行が無いときに「引かなくていい相手なんだ」と読むのは早いです。単に請求書の書式が源泉を想定していないだけ、ということもあります。個人の社労士・税理士なのに行が無ければ、振り込む前に相手に一言確認するのが確実です。
3. 報酬と「実費」が分かれているか
司法書士の請求書には、報酬のほかに登録免許税や証明書の取得費用が並びます。行政書士なら許可申請の手数料、社労士なら書類の郵送費などです。
報酬と明確に区分されていて、士業が役所などに直接納める登録免許税や手数料は、源泉徴収の対象に含めません。 区分されていないと、合計額にかけてしまい、引きすぎになります。
一方で、交通費や宿泊費を士業が立て替えて報酬と一緒に請求してきた場合は、原則として報酬に含めて計算する扱いです。こちらは逆に、分けて考えると引き足りなくなります。含めなくてよいのは、払う側が交通機関やホテルに直接払った交通費・宿泊費(通常必要な範囲のもの)です。どちらに当たるか迷う項目があれば、請求書の明細を相手に聞いてください。
消費税については、請求書で報酬と消費税額がはっきり分かれていれば、税抜の報酬額を基準にしてよいとされています。
払う側が「源泉徴収をする立場」でなければ、そもそも引かない
ここまでは受け取る側の話でしたが、払う側にも条件があります。
源泉徴収をするのは、源泉徴収義務者にあたる人です。会社(法人)は、原則として源泉徴収義務者になります。一方、従業員に給与を払っていない個人事業主は、一般に源泉徴収義務者にあたらず、士業への報酬から差し引く必要はありません(No.2502 源泉徴収義務者とは)。
つまり、ひとりで開業している個人事業主が税理士に確定申告を頼んだ場合、請求額をそのまま払えばよいのが一般的です。ところが、同じ人がパートを1人雇って給与を払い始めると、立場が変わります。人を雇ったタイミングで、士業への支払い方も変わるという点は、ほとんど意識されていません。
家事使用人だけを雇っている場合など例外の扱いもあるので、自分がどちらに当たるか迷うときは、税務署の電話相談か税理士に確認してください。
計算してみる
例1:個人の社労士に、顧問料 月30,000円+消費税3,000円(請求書で区分あり)
- 源泉徴収税額:30,000円 × 10.21% = 3,063円
- 振込額:33,000円 − 3,063円 = 29,937円
例2:個人の司法書士に、報酬60,000円+消費税6,000円、登録免許税(区分あり)
- 源泉徴収税額:(60,000円 − 10,000円)× 10.21% = 5,105円
- 登録免許税の分は計算に含めない
- 振込額:請求合計 − 5,105円
例3:行政書士に、報酬50,000円+消費税5,000円
- 差し引かない。55,000円をそのまま振り込む
1円未満の端数は切り捨てます。
引いたお金は、翌月10日までに納める
差し引いた金額は、預かっているだけのお金です。原則として、支払った月の翌月10日までに税務署へ納めます。
給与を払う人数が常時10人未満の事業者は、届出をして承認を受ければ、半年分をまとめて納める「納期の特例」が使えます。この特例は給与だけでなく、税理士・弁護士・司法書士などの一定の報酬から差し引いた分にも使えます(No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例)。1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日が納付期限です。すでに給与で特例を使っているなら、士業の報酬分も同じ納期にそろえて納めることになります。
また、同じ士業に1年間で一定額を超えて払った場合は、翌年1月末までに「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を税務署へ出す必要があります。顧問契約をしている相手なら、ほぼ毎年対象になると考えておくと漏れません。提出の基準額は国税庁の案内で確認してください。
勘定科目は、「何のための支払いか」で分ける
ようやく勘定科目です。勘定科目は法律で名前が決まっているものではなく、同じ種類の支払いを毎年同じ科目で付けることのほうが大切です。そのうえで、よく使われる付け方は次のとおりです。
| 支払いの中身 | よく使われる科目 |
|---|---|
| 税理士・社労士の顧問料、行政書士・司法書士へのスポットの報酬 | 支払報酬(支払報酬料)、または支払手数料 |
| 会社設立のときの司法書士・行政書士への報酬、定款認証の手数料 | 創立費 |
| 登録免許税、収入印紙 | 租税公課(設立登記のときは創立費に含めることが多い) |
| 差し引いて預かった源泉所得税 | 預り金 |
「支払報酬」と「支払手数料」のどちらを使うかは会社ごとの決めごとです。ただ、源泉徴収の対象になる士業への支払いを「支払報酬」、振込手数料などを「支払手数料」と分けておくと、年末に支払調書を作るとき、対象になる支払いを科目から拾えるので楽になります。
仕訳の形で書くと、例1の社労士の顧問料はこうなります。
- 支払報酬 30,000円 / 預り金 3,063円
- 仮払消費税 3,000円 / 普通預金 29,937円
翌月、預り金を納めたときに「預り金 3,063円 / 普通預金 3,063円」で消えます。預り金の残高が月末に残り続けているなら、納め忘れのサインです。
引き忘れていたと気づいたら
過去の支払いで源泉徴収をしていなかったと気づいても、慌てて相手に返金を求める前に、状況を整理したほうがいいです。
引き忘れた税額は、払った側が納める義務を負います。あとから相手に請求するかどうかは相手との関係の問題になりますし、納付が遅れた分には延滞税などがかかることがあります。件数や期間によって対応が変わるので、税務署に自分から相談するか、税理士に見てもらうのが現実的な順番です。
こうした「気づいたら数年分たまっていた」処理は、顧問税理士がいない会社で起きやすいものです。人を雇った、取引先が増えた、というタイミングは、税理士への相談を考え始める目安にもなります。その判断の材料は税理士に頼むのはいつからかにまとめています。
よくある質問
顧問料を年払いにしたら、100万円を超えた部分は20.42%ですか
1回に支払う金額が100万円を超えれば、超えた部分に20.42%がかかります。月払いと年払いで税額が変わることがあるので、支払い方法を変えるときは計算し直してください。
行政書士の請求書に源泉徴収税額が書かれていました
行政書士への報酬は源泉徴収の対象外なので、書式の誤りの可能性があります。行政書士が別の資格(社労士など)も持っていて、その資格の業務として請求している場合は扱いが変わるので、どの資格の業務としての請求かを相手に確認してください。
弁護士に一度だけ相談した相談料も、引く必要がありますか
個人の弁護士に払う相談料も報酬にあたるため、会社など源泉徴収義務者が払う場合は、金額の大小にかかわらず源泉徴収の対象です。弁護士法人への支払いなら差し引きません。
社労士の顧問料には何が含まれているのか、よく分かっていません
請求書の金額の内訳が分からないと、実費の区分も判断できません。顧問料に含まれる業務と別料金になる業務の分かれ方は、社労士の顧問料の相場と「何が含まれるか」で整理しています。
まとめ
- 士業への報酬の源泉徴収は、資格・相手が個人か法人か・払う側の立場の3つで決まる
- 税理士・社労士・弁護士・中小企業診断士などは10.21%、司法書士は1万円を引いてから10.21%、行政書士は対象外
- 請求書では、発行元の名義、源泉徴収税額の行、実費の区分を先に見る
- 差し引いた分は原則翌月10日までに納める。10人未満なら納期の特例も使える
- 勘定科目は、源泉の対象になる士業への支払いを「支払報酬」でまとめておくと、支払調書の作業が楽になる
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<p style=”margin:.6em 0 0;color:#5b6b7c;font-size:.92em”>確認日:2026-09-28。源泉徴収の対象・税率・納期・支払調書の提出基準は、税制改正や個別の事情によって変わることがあります。実際の処理は、国税庁のタックスアンサーや税務署、税理士にご確認ください。</p>

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