顧問の社労士を変えたい、という相談は珍しくありません。連絡が返ってこない、手続きの漏れが続いた、担当が代わってから話が通じない、料金が業務量に合わなくなった——理由はさまざまですが、相談の入り口はほぼ全部「解約できますか」から始まります。
ただ、実務で本当に詰まるのはそこではありません。解約は、契約書に書いてあるとおりにやれば大体終わります。詰まるのは、その後の引き継ぎです。
順番を間違えると戻せない箇所が4つあります。そこを先に押さえてから動くと、余計な費用も気まずさも減ります。
1. まず契約書の5行を読む
「言えば辞められる」と考えて動き始めると、あとから請求が来ることがあります。顧問契約書で確認するのは次の5点です。
- 解約の予告期間 — 「◯か月前までに書面で通知」という条項が入っているのが一般的です。口頭で伝えた日ではなく、書面が届いた日から数えられることがあります。
- 自動更新条項 — 更新日の直前に申し出ると、次の期間まで契約が続く形になっている場合があります。更新日から逆算していつまでに出すかを先に決めてください。
- 最低契約期間 — 顧問料を割り引いている契約や、初期の設定作業を無料にした契約では、期間の縛りが入っていることがあります。
- 中途解約時の精算 — 前払いした顧問料の扱い、着手済みで未完了の手続きの扱いです。
- 成功報酬の残り — 助成金など成功報酬型の業務を依頼している場合、入金が後になる報酬の請求権が契約終了後も残る書き方になっていることがあります。
⚠️ ここは契約書の書き方で結論が変わる部分です。条項の意味が読み取れないときは、自己判断で通知を出す前に、別の社労士か弁護士に契約書そのものを見てもらってください。 一般論としての目安は書けますが、あなたの契約の答えにはなりません。
2. 引き継ぎで詰まる4か所
① 電子申請の権限(ここが一番戻しにくい)
社会保険・労働保険の手続きを電子申請で任せている場合、その権限がどこに紐づいているかを確認してください。事務所側のIDで運用しているのか、自社のIDに社労士を紐づけているのかで、切り替えの手間がまったく違います。
先に解約を通知してから権限の話をすると、協力を得にくくなります。 権限の所在を確認するのが先です。
② 給与計算のデータ
賃金台帳、控除の設定、住民税の徴収額、有給の残日数——これらは紙で受け取っても再入力に時間がかかります。 使用しているソフトの形式で出せるか、CSVなど汎用の形で出せるかを聞いておいてください。
年の途中で切り替えると、年末調整の集計で必ず一度ぶつかります。 1〜12月のどこで切るかは、この段階で新旧どちらが年末調整を担当するかまで決めておくのが安全です。
③ 就業規則・36協定などの原本と改定履歴
就業規則は「最新版」だけでは足りません。いつ何を変えて、いつ届け出たかという履歴が、次の改定でも労使トラブルでも効いてきます。届出済みの控え(受付印のあるもの)がどこにあるかを確認してください。
④ 申請中の助成金
これが一番はっきりした損になり得る箇所です。 助成金は計画届の提出から支給決定まで期間が空くものが多く、その途中で顧問を切り替えると、誰が最後まで面倒を見るのかが宙に浮きます。
申請中の案件があるなら、①その案件だけ現社労士に完了まで担当してもらう、②新しい社労士へ引き継ぐ、のどちらかを書面で決めてから解約を進めてください。
3. 時期を選ぶ
社会保険の実務には毎年決まった山があります。その真上で切り替えると、旧・新どちらの事務所も手が回りません。
- 4月 — 入退社と保険料率の切り替わり
- 6〜7月 — 労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届
- 10月 — 標準報酬月額の改定反映、最低賃金の改定
- 11〜1月 — 年末調整と法定調書
避けやすいのは2〜3月と8〜9月です。士業側の繁忙期の全体像は士業の繁忙期カレンダーにまとめています。
4. 次の社労士に、契約前に聞く5つ
同じ失敗を繰り返さないために、料金より先に聞いたほうがいいことがあります。
1. 窓口は誰か。担当者が代わるときに引き継ぎはあるか(不満の多くはここから始まります) 2. 連絡手段と、返信の目安(メールのみか、チャットも可か) 3. 顧問料に含まれる範囲と、別料金になる作業(顧問契約の中身の分け方) 4. 給与計算をどのソフトで行うか。データを自社で持てるか 5. 前任からの引き継ぎを、どこまでやってくれるか
5つ目は特に大事です。引き継ぎ作業を「初期費用」として別途請求する事務所と、顧問料に含める事務所があります。 ここを確認せずに契約すると、切り替えの月だけ費用が跳ねます。
まとめ
- 解約そのものより、電子申請の権限・給与データ・規程の履歴・申請中の助成金の4か所が難所です
- 権限とデータの所在を確認してから、解約を通知する順番にしてください
- 予告期間・自動更新・最低契約期間・精算・成功報酬の残りは、契約書の記載が優先します
- 切り替えは繁忙期を外す。年末調整をどちらが担当するかは先に決める
この記事は一般的な進め方の整理です。 個別の契約や労務の状況によって結論は変わります。判断に迷う点は、契約書を持って社労士・弁護士にご相談ください。
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